遠くても近くても

遠くても近くても

高校生の佐々木優子は、久しぶりに国際NGOで働く母、絵里からの手紙を受け取る。手紙には、遠く離れた母の日々の暮らしや家族への深い愛情が綴られていた。読み進めるうちに、優子は母の存在の大きさと家族との絆の重要性を改めて実感する。この手紙をきっかけに、優子は自分の思いを綴った返信をすることを決意し、家族間の新たな絆を深めていく。


 

秋の午後、窓から差し込む柔らかな日差しの中で、佐々木優子はふと郵便受けの中を覗いた。普段は広告や学校からの通知ばかりで、特に心躍るものはないのだが、今日は違った。手に取ったのは、海外の切手が貼られた封筒。差出人は「佐々木絵里」―母だった。久しぶりに見る母の筆跡に、優子の心は一瞬で複雑な感情に包まれた。

 

家族と離れて暮らす母からの手紙は珍しい。普段は短いメールやビデオ通話がほとんどで、手紙を交わすことはほとんどなかった。だからこそ、封を切る手がわずかに震えた。リビングのテーブルに手紙を広げると、優子は深呼吸をしてからゆっくりと目を通し始めた。

 

「こんな形で手紙を書くのは久しぶりね。今日は特別な気持ちでペンを取っているわ。こちらでの生活は忙しいけれど、あなたたちを思う時間はいつも心にあるよ」

 

母の言葉は、遠く離れた地での日々の暮らし、そこで感じた小さな幸せや苦労が綴られていた。仕事で訪れた小さな村での出来事、現地の人々との交流、そして何よりも家族への深い愛情が文字から伝わってきた。

 

「先日、村の子供たちと一緒に過ごした時のこと。彼らの笑顔がとても純粋で、優子たちの幼い頃を思い出したわ。離れていても、心はいつも一緒よ」

 

手紙を読み進めるうちに、優子の目からは止めどなく涙が流れ出した。それは悲しみの涙ではなく、母の暖かさ、遠く離れていても変わらない家族への愛を感じたからだ。母がどれだけ忙しくとも、優子たち家族のことを想ってくれていることが心に染み入った。

 

リビングの時計の針が静かに動く中、優子は手紙を何度も読み返した。母からの言葉一つ一つが、今まで感じていた寂しさを癒してくれるかのようだった。そして、この手紙が、遠く離れた母との間に新たな絆を築き始めていることを、優子は深く感じ取っていた。

 

 

手紙を読み終えた優子は、部屋の中を見回した。普段は当たり前のように過ごしているこの空間が、今は何とも言えない温かさを放っているように感じられた。母がいない寂しさはあるが、その存在が家族に与えている影響の大きさを改めて実感する瞬間だった。

 

「お母さんは、こんなにも私たちのことを考えてくれていたんだ…」

 

優子の心には、これまで抱えていた寂しさや不満が、母の深い愛情を再確認することで少しずつ和らいでいくのを感じた。部屋の隅に置かれた古いデスクに向かい、彼女は返事を書くためのペンと紙を用意した。返事を書く決意は固いものだったが、何をどう書けばいいのか、心の中は複雑だった。

 

優子はまず、自分の日常について書き始めた。学校での出来事、友人たちとの交流、そして家での生活。些細なことかもしれないが、これら全てが母にとっては大切な「家族の日常」なのだと感じた。次に、母が遠くにいても変わらず家族を想ってくれていることへの感謝の気持ちを綴った。

 

「お母さんがいない寂しさを感じることもあるけれど、今はそのすべてがお母さんの愛だとわかるようになったよ。お母さんの手紙が、私にとってどれほど大切なものか、言葉では表せないけれど…」

 

そして、優子はこれからも家族の絆を大切にしていきたいという思いを込めて、手紙を締めくくった。母からの手紙と自分の返事。これらは単なる紙とインクに過ぎないかもしれないが、その中には計り知れない家族の愛が詰まっている。

 

手紙を封筒に入れ、優子は深く息を吸い込んだ。このやり取りが、遠く離れた母との新たなつながりを生み出すことになるだろう。そして、この経験が家族全員の絆をさらに深めることになることを、彼女は強く信じていた。

 

夜が訪れ、部屋の中が暖かい灯りで満たされる中、優子は窓の外を見つめた。星空の下、遠く離れた母への思いが一層強くなる。でも今は、その距離さえも家族の絆を確かなものに変える力があると、彼女は感じていた。